大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

仙台高等裁判所 昭和26年(う)879号 判決

控訴人 被告人 野元幸子

弁護人 渡辺大司

検察官 馬屋原成男関与

主文

原判決を破棄する。

被告人を罰金参千円に処する。

右罰金を完納することが出来ない時は被告人を拾五日間労役場に留置する。

当審における訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

弁護人渡辺大司の控訴趣意は記録編綴の同弁護人名義の控訴趣意書記載のとおりであるから茲に引用する。

控訴趣意第一点について

よつて記録を精査し原判決第二事実に関する摘示の証拠を綜合して考察するに被告人が原判示第二事実記載の物件を所持していたことは認められるも右は公に認められる場合のものである点については之を窺うに足らない。しからば原判決は理由を附さない違法があると言わなければならないから原判決は破棄を免れない。論旨は理由がある。

同第二点について

しかし原判決は原判示第二事実認定の証拠として佐藤輝美に対する司法警察員作成の第一回供述調書は採用していないのであるから仮りに所論のような違法があつたとしても原判決破棄の事由とすることは出来ない。論旨は理由がない。

同第三点について

記録を調査するに所論のとおり原審は英文で記載された文書自体については証拠調をしていないが其の訳文について証拠調をしているのである。元来裁判所の用語は日本語であることは裁判所法の明定しているところであつてこの趣旨に鑑みるときは外国文をもつて記載された文書の証拠調は展示し且つ訳文あるときは夫れを朗読することによつてなされるを相当とすること勿論であつて之に従つてなされた原審の訴訟手続には毫も違法の点はない。論旨は理由がない。

よつて刑事訴訟法第三百九十七条に則り原判決を破棄すべく、同法第四百条但書により本件については訴訟記録並に原裁判所において取調べた証拠により直ちに判決をすることが出来るものと認めるので更に次のとおり判決をなすべきものとする。

「罪となるべき事実」

被告人は公に認められた場合でないのに拘らず昭和二十五年十一月初旬頃青森県三戸郡市川村字尻引前山の自宅において連合国占領軍の財産である米兵用カーキーシャツ一枚、米国煙草(ポルモール)十六個、米兵用化粧石鹸三個、短靴一足を所持したものである。

「証拠の標目」

一、被告人に対する司法警察員巡査井畑酉吉及び検察官事務取扱検察官副検事菅原正志の各第一回供述調書中の供述記載一、沢田栄一の訳文にかかるロバートキヤストの押収品目録中被告人関係部分の記載

を綜合して判示事実を認定する。

「法令の適用」

被告人の所為は昭和二十四年政令第三百八十九号連合国占領軍財産等収受所持禁止令第二条第四条罰金等臨時措置法第二条第四条に該当するので所定刑中罰金刑を選択して其の金額範囲内で被告人を罰金参千円に処すべく、刑法第十八条により右罰金を完納することが出来ない時は被告人を拾五日間労役場に留置し、当審における訴訟費用は刑事訴訟法第百八十一条第一項により被告人の負担たるべきものとして主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松村美佐男 裁判官 蓮見重治 裁判官 檀崎喜作)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例